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3dlutcreatorブログ

SMPTE会議における提案の抄訳

2018.03.15

SpectraCALテクニカルリエゾンのタイラープルーイットによって紹介されたビデオです。カリフォルニア州ハリウッドでの2017 SMPTE技術会議で発表されました。このプレゼンテーションは, コンシューマのHDRテレビやプロジェクターのHDRキャリブレーションに関する新しい校正方法を提案しています。そして、LG OLED 2018モデルにおけるHDRキャリブレーションはこの提案に準ずる方法をドルビーラボラトリー及びLGエレクトロニクスとともに実現しています。


 

背景と動機

高輝度(HDR)および広色域(WCG)の強化は、テレビメーカー、テレビや映画のコンテンツ制作者、ビデオゲーム業界により強く推進されると共に広く実装されている。
業界の専門家、ジャーナリスト、消費者は、HDR/WCGはSDTVからHDTVへの移行以来最大の画質向上をもたらしたと述べている。
この技術が視聴者に与える影響は、Full HD 1080pからUHD解像度(3840x2160p)へ移行した時よりもはるかに大きいことが示されている。
マントラは、単に多くのピクセルではなく、「良質のピクセル」である。

コンテンツ制作者の芸術的な狙いを可能な限りそのまま味わいたいと思う消費者は、適度に色校正されたディスプレイでビデオコンテンツを見たくなる。
家庭用ディスプレイをITU-R BT.7091 HDTV規格に色校正する方法は完成されており、広く知られている。
HDR/WCGは現在のところ家庭用テレビに実装されているため、SMPTE ST 2084(*3)電気光学伝達関数(EOTF)などのITU-R BT.21002の新しいHDR/WCG規格に適するよう色校正するためには、特有の課題がいくつかある。

白色のピーク輝度と色域の広さとの組み合わせにより、いわゆるディスプレイの「カラーボリューム」と呼ばれるものが定められる。
HDRコンテンツ制作に使用されるHDRマスタリング・ディスプレイは、通常、家庭用HDRディスプレイよりもカラーボリュームが大きい。芸術的な狙いをそのまま維持するには、家庭用HDRディスプレイにカラーボリュームのリマッピング(トーンマッピングおよび色域マッピング)を実行する必要がある。
しかし、カラーボリュームのリマッピングの実施方法については、今のところ規格がない。
したがって、家庭用ディスプレイのメーカーはそれぞれ、カラーボリュームのリマッピングを処理する独自のアルゴリズムを有している。

HDR家庭用テレビのカラーボリュームのリマッピングは、静的なものから動的なものへと急速に移行している。
この移行の原因は、消費者が利用できるHDRコンテンツの一部は4,000 cd/m2のHDRマスタリング・ディスプレイでマスタリングされているのに、他のHDRコンテンツが1,000 cd/m2のディスプレイでマスタリングされていることである。
1つの静止画トーンマップが、このような異なる輝度レベルのHDRコンテンツを両方とも正確に処理するとは期待できない。
 
ディスプレイを色校正する基本的な考え方は、既知の規格に合わせて校正することである。しかし、HDRカラーボリュームのリマッピングは規格化されていないため、家庭用HDRテレビでHDRピクチャモードをきちんと色校正するには特有の課題が生じる。

校正や検証のための規格がなければ、HDRディスプレイが正しく校正されているかどうかを客観的に判断することはできない。
ややこしいことに、現在のLCD/OLED HDRテレビはすべて、基盤のディスプレイパネルはガンマベースである。その結果、 ハイブリッド・ログ・ガンマまたはST 2084(*3)EOTFのいずれかを使用するITU-R BT.2100(*2) HDRコンテンツは、べき関数(パワーガンマ)を2.2または2.4として、ディスプレイパネルのネイティブ・ガンマにそのままマッピングされる。

HDTV OSDメニューシステムのテレビ校正コントロールは、TVキャリブレーター、キャリブレーション機器、キャリブレーション・ソフトウェアのベンダーから過去10年間に送られたフィードバックをもとに、ITU-R BT.7091規格への校正用に設計および最適化されている。対照的にHDRテレビの校正コントロールは、通常はカラーボリューム・マッピング機能の下流に位置しており、エンコードされたHDR EOTFから表示パネルのネイティブ・ガンマへの変換である。
これにより、そのコントロールが予期せぬ動作をしたり、ディスプレイがHDRモードで動作するときに所定のコントロールポイントに調整できずにずれてしまったりする可能性がある。

本稿では、HDRカラーボリュームのリマッピング動作に依存しない、HDR対応テレビジョンを校正するための新しい方法論を提案する。
 

新しい方法論

ここで述べる校正プロセスには、家庭用HDRテレビのメーカーによる協力が必要となる。このプロセスが将来の規格を定める基礎となり、テレビメーカーに採用されることを著者は希望している。
目標は、HDRピクチャモードのあらゆるカラーボリュームでのリマッピング、および無効化またはバイパスされたネイティブ・ディスプレイパネル・ガンマへのHDR EOTFの変換を校正することである。
これにより、特有のHDRリマッピング/変換アルゴリズムと矛盾することなく、ディスプレイのグレースケール応答およびガンマ応答の校正が可能になる。
このアプローチのもう1つの利点は、まだ規格化されていない静的校正を受けたHDRトーンマップが必要ないことである。
 

ステップ1:グレースケール応答
 
ネイティブ・ディスプレイパネルのグレースケール/ガンマ応答を校正するには、あらゆるHDRカラーボリュームのリマッピングおよびHDR EOTFからネイティブ・ディスプレイパネル・ガンマへの変換を無効化するかバイパスする必要がある。
これはHDRテレビ内のビデオパイプラインの設計によって、1Dルックアップテーブル(1D LUT)、3Dルックアップテーブル(3D LUT)、3x3マトリックスが複数組み合わされて構成される。「HDRバイパスモード」にするには、これらを単一かつ同一のものとして設定する必要がある。
また、校正プロセス中にHDRディスプレイをHDRバイパスモードに設定するべきである。ここで、テレビメーカーがバイパスモードの起動を実装する方法を3つ提案する。
 

HDRバイパスモードを有効にする方法の提案

1.SMPTE ST 2086(*4)静的メタデータの特別なセットを使用する
2.赤外線リモコンによるボタンの組み合わせを採用する
3.テレビのOSDメニューシステムでメニューオプションを提供する
 
HDRテレビがHDRバイパスモードになると、ディスプレイのOSDメニューシステムにある通常のグレースケール、ガンマ、ホワイトバランスのコントロールを用いてディスプレイを校正できる。
これらのコントロールは通常、ディスプレイのビデオパイプラインにある最後の1Dルックアップテーブルを操作する。
 

ステップ2:カラーボリューム・プロファイル
 
家庭用HDRディスプレイ用に提案する校正プロセス第2段は、測定された「カラーボリューム・プロファイル」である。ディスプレイの実際のカラーボリューム性能を測定することにより、その値をディスプレイ自体にフィードバックできる。
次にその測定された性能を用いて、ディスプレイがHDRコンテンツのカラーボリュームのリマッピングをより正確に実行する。
カラーボリューム・プロファイルとなるのは、以下の指標の測定値である。(これらの測定は、ディスプレイがステップ1のHDRバイパスモードになっている間に実施する必要がある。)
 
• 白ピーク輝度(cd/m2)
• 黒レベル(cd/m2)
• 赤原色(CIE1931 xy)
• 緑原色(CIE1931 xy)
• 青原色(CIE1931 xy)
 
カラーボリューム・プロファイルを作成したら、そのデータをディスプレイにフィードバックしなければならない。家庭用HDRテレビのメーカー数社から送られたフィードバックに基づき、測定データをディスプレイに取り込む方法3つをここに提案する。
 
1.USBスティックからテレビにロードできるカラーボリューム・プロファイルのテキストファイル
2.OSDメニューシステムからテレビ入力できるカラーボリューム・プロファイル・データ
3.ネットワーク接続またはシリアルAPIからプログラムの形で供給されるカラーボリューム・プロファイル・データ
 

結論
 
HDRテレビのカラーボリューム・マッピングはダイナミックな性質を有するため、色校正には新しいアプローチが必要である。本稿が提案しているのは、既知の予測可能な状態に合わせてテレビの基礎パネル応答を正確に校正する、新しい校正プロセスである。
さらにこのプロセスにより、HDRテレビのメーカーやそのパートナー企業が開発するカラーボリューム・リマッピング・アルゴリズムで継続的なイノベーションが起こると思われる。
 

参考文献
 
*1.国際電気通信連合 - 無線通信(ITU-R)、勧告ITU-R BT.709、「生産と国際プログラム交換のためのHDTV規格のパラメータ値」
*2.国際電気通信連合 - 無線通信(ITU-R)、勧告ITU-R BT.2100、「生産と国際プログラム交換で用いられる高輝度テレビの画像パラメータ値」
*3.SMPTE、ST 2084、「マスタリング・リファレンス・ディスプレイの高輝度電気光学伝達関数」
*4.SMPTE、ST 2086:2014、「高輝度および広色域画像をサポートするディスプレイ・カラー・ボリューム・メタデータのマスタリング」